XRPL MECHANISM XLS-65 + XLS-66
XRPL Vaultは、
XRPを増やす
金庫ではない。
Vaultが束ねるのは、一つの資産、預金者のMPT持分、貸付先への債権、そして損失です。増減するのは、持分1単位から引き出せるXRPの量。利回りは、その外側にある貸付が生みます。
投資助言ではありません。 公開された仕様・提出資料を基に、未稼働機能の構造と条件を整理しています。XLS-65・XLS-66は2026年7月19日時点でMainnet未有効です。
例:100 XRPを集め、60 XRPを貸し、預金者に帰属する予定純利息を6 XRPとする簡略図。実際の条件・会計値はVaultごとに異なります。
01 / PRIMITIVE
Vaultは金庫ではなく、
会計レールだ。
XRPを入れれば、自動で増える。そう見えやすい。ところが、Vault単体は利息を一枚も生みません。資産を集め、持分を発行し、別のプロトコルが使える形に整える共通部品です。
総資産と引出可能額を記録する
AssetsTotal、AssetsAvailable、LossUnrealizedを分け、預金者の請求権を計算します。
実物の資産を保持する
Vault ledger entry自体は資産を持てません。専用のpseudo-accountがXRP、Trust Line Token、MPTのいずれか一資産を保持します。
利回りと損失を持ち込む
貸付などの接続プロトコルが資産を利用し、債権・返済・予想損失をVault会計へ反映します。XLS-66が最初の具体例です。
02 / ANATOMY
現物・債権・損失・持分が、
一つの帳簿でつながる。
登場人物は多くありません。預金者、Vault、Loan Broker、借り手。その間を、現物XRPと、それを受け取る権利が反対向きに流れます。
「Accessor」は自由に資産を抜ける外部口座ではなく、Vaultへ接続され、自分の債務とVault状態を同じ取引で更新するプロトコル層です。現仕様ではVault OwnerとLoan Brokerは同じアカウントです。
03 / DEPOSIT
預けたXRPは、
MPT持分に置き換わる。
預金者は資産を失うのではありません。現物をpseudo-accountへ移し、代わりにVault全体への比例請求権を受け取ります。MPT(Multi-Purpose Token)は、その持分証明に使われるXRPL上のトークン形式。MPT自体が預けたXRPなのではなく、XRPを受け取る権利の表示です。
- XRPを預ける場合
- 初期尺度は1 share = 1 drop。ただし貸付損益が入れば、1 shareから償還できるXRP量は変わります。
- Trust Line Tokenの場合
- 持分を整数で扱うため、Vault作成時にScale 0〜18を設定できます。
- MPTを預ける場合
- 基礎MPTの1 unitに対して、初期持分は1対1。端数は扱えないため丸めに注意が必要です。
MPT持分の発行は、新しいXRPの発行ではありません。Vault内の既存XRPに対する請求権を、整数単位のトークンで記録しているだけです。
04 / LENDING ACCOUNTING
貸付後は、総資産と
引出可能額が分かれる。
60 XRPを貸した瞬間、金庫の現物は40 XRPへ減ります。しかしVaultの価値が40へ落ちるわけではありません。代わりに、借り手へ返してもらう債権が残ります。
預入直後
- AssetsTotal
- 100
- Available
- 100
- Debt
- 0
60 XRPを貸付
- AssetsTotal
- 106
- Available
- 40
- Debt
- 66
完済後
- AssetsTotal
- 106
- Available
- 106
- Debt
- 0
VIEW
XLS-66の簡略例。実際には丸め、手数料、複数貸付、予想損失などが反映されます。
XLS-66は固定期間・無担保融資です。借り手の信用審査とリスク管理はオフチェーン。Aave型の自動担保・自動清算は、現仕様に含まれません。
05 / SHARE VALUE
純利息が損失を上回ると、
1持分のXRPが増える。
預金者のMPT枚数が勝手に増えるわけではありません。同じ持分から受け取れるXRPが増えます。借り手の利息が入り、管理手数料と損失を差し引いてもプラスなら、持分の中身が厚くなります。
利率の高さではなく、最終的にVaultへ残る同一資産の純増を見る。
預入はAssetsTotal基準
新規持分 ≒ 預入額 × SharesTotal ÷ AssetsTotal
含み損を差し引いた安いレートで大量の持分を得て、その後の損失回復を横取りする動きを防ぎます。
償還は損失控除後の価値
1持分の資産 ≒(AssetsTotal − LossUnrealized)÷ SharesTotal
回収が怪しい債権を満額扱いせず、その時点の予想損失を既存持分の受取額へ反映します。
1持分から多くのXRPを引き出せる
返済された元本と純利息がAvailableへ戻り、Vaultの純資産が持分数より速く増えます。
1持分から戻るXRPが減る
未回収債権やデフォルト損失は、First-Lossで吸収できない限りVault全体の価値を下げます。
06 / LOSS WATERFALL
First-Lossを越えた損失は、
預金者の持分へ届く。
First-Loss Capitalは、Loan Brokerが用意する損失吸収材です。ただし任意であり、全額保証でもありません。返済不能が発生するとLoan Brokerがデフォルト処理を行い、利用可能なFirst-Lossを充当した後、カバーを越えた未回収分をVaultのAssetsTotalから減らします。
危険が見えた時点で、紙の損失を置く
Loan Brokerが返済困難を把握すると、LossUnrealizedを増やして償還価値へ先に反映できます。返済が届けば、impaired状態は解除され得ます。
Brokerがデフォルト処理し、実損を反映する
Loan Brokerがデフォルト処理を行い、利用可能なFirst-Lossを充当してから、残りをAssetsTotalから落とします。総持分数は変わらないため、1持分の価値が下がります。
07 / WITHDRAWAL
償還する権利と、
今ある流動性は別物だ。
Private Vaultで資格が失効しても、既存持分を償還する権利は残ります。しかし、貸出中のXRPはVault内にありません。AssetsAvailableが足りなければ、引き出し取引は失敗します。
持分枚数を指定する
MPT持分をburnし、その割合に応じた資産を受け取ります。予想損失があれば、損失控除後のレートです。
欲しい資産量を指定する
指定したXRPを受け取るために必要な持分数を計算し、burnします。どちらもVaultWithdrawで処理されます。
現仕様のWithdrawal Policyはfirst-come-first-serveです。ただし、待機キューはありません。先に成功した取引がAvailableを使い、不足した後続取引は失敗します。流動性が戻った後に受け取りたい場合、利用者はVaultWithdrawを再送する必要があります。これは仕様から導けるリスクであり、稼働実績ではありません。
08 / ACCESS CONTROL
Private Vaultは入場を絞る。
既存持分の出口は奪わない。
Permissioned Domainは、有効なCredentialを持つ口座だけに預入を許します。KYCや参加資格をオンチェーンで確認する入口です。ただし、資格の失効を理由に既存資産を閉じ込める設計ではありません。
- Public Vault
- 十分な資産と持分があれば、原則として誰でも預入・償還できます。
- Private Vault
- 新規預入にはPermissioned Domainが受け入れる有効Credentialが必要です。既存持分の償還には同じ資格を要求しません。
- 持分の譲渡
- Vault作成時にtransferableを選んだ場合のみ可能。Private Vaultでは受取人にもDomain資格と基礎資産を保有できる条件が必要です。
- Freeze / Clawback
- Trust Line Token・MPTには発行体のfreeze、lock、clawbackがあり得ます。ネイティブXRPには発行体がいないため適用されません。
09 / EVERNORTH
利用意向はある。
利用実績はまだない。
EvernorthはSEC提出済みの2026年1月資料で、XLS-66を中核戦略として利用し、XRPをSingle Asset Vaultへ預ける意向を示しました。同じ資料は、未承認・未実装であり、利回りも元本も保証されないと明記しています。
市場の新規買いではない
すでに保有するXRPをVaultへ移すだけなら、取引所に新しい買い注文は入りません。
XRPは再び使える状態になる
借り手はXRPをMM在庫、担保、ヘッジ、売却などに利用できます。貸付は永久な市場回収ではありません。
市場で追加購入した部分だけ
資金調達や運用益を使い、現物市場でXRPを追加取得した時点で、新しい買い需要になります。
10 / STATUS & CONDITIONS
実装済みでも、Mainnetで
使えるとは限らない。
xrpld 3.1.0にはVaultとLendingの実装が入りました。しかし、コードが配布されたことと、Mainnetで機能が有効になったことは別です。2026年7月19日時点では、主要Amendmentは投票中です。
MPTokensV1
Credentials
MPTの基礎とCredentialはMainnetで有効。Vaultを構成する土台の一部です。
Permissioned Domains
Single Asset Vault
Lending Protocol
最新安定版のdefault voteはNo。80%超の支持を2週間維持して初めて有効になります。
MPTokensV2
DEX Integration
MPTをDEX・AMMへ本格統合する追加機能。Vault持分が現在あらゆる市場で自由に取引できる、とは言えません。
信用が成立する
オフチェーン審査で借り手を選び、デフォルト率と回収率を管理できること。
流動性が残る
固定期間貸付を行いながら、預金者の償還に足りるAssetsAvailableを維持できること。
純利益が残る
利息から管理手数料、貸倒れ、運用・システムコストを引いた後もXRPが増えること。
XLS-65・XLS-66はともにDraftです。Vault仕様のSecurity Considerationsには未記入部分が残り、2026年のサーバー更新でも会計・丸め・不変条件の修正が続いています。完成済みの本番商品として扱わないことが、現時点では最も重要です。
PRIMARY SOURCES
一次資料
仕様の要約は、可能な限りXRPL StandardsとXRPL公式ドキュメントを優先しました。預入・償還レートはXLS-65仕様本文を優先。ステータスは2026年7月19日時点です。