取り残された Interledger は今どこにいるか— Ripple 中枢戦略からの分岐——Global South 小口送金 × Stellar との競合構造
Ripple と Interledger Protocol(ILP)は『同じ Internet of Value vision の双子』だった——だが 2018-2023 年に完全に別の path に分岐した。Ripple は US institutional 中枢(BNY / Hidden Road / OCC / Fed)に特化、ILP は Global South / financial inclusion / Web Monetization に独立。これは『失敗』『放棄』ではなく『遺産分割』。Stefan Thomas(元 Ripple CTO・ILP 共同設計者)が 2018 年に Ripple を退任 → Coil 設立 → 2023 年 Coil シャットダウン(78 億 payments を達成)→ Interledger Foundation Chairperson へ——個人軌跡が ILP の独立化を象徴する。現在 ILP は確実に生きている:Bangladesh Bank が 2025 年 9月に Mojaloop(ILP-powered)で IIPS を稼働、Flutterwave が 2025 年に Stellar 経由で $31B 処理(前年 $9B から急成長)、MoneyGram-Stellar は 2026 年 4月に複数年延長を発表、Web Monetization は W3C WICG で incubating。Stellar との競合構造は『似て非なる戦略』——Stellar は『anchor 経由の native ledger』、ILP は『どんな ledger にも plug-in できる中立 protocol』。両者とも年 $95B の Africa remittance 市場を狙うが、技術設計と政治的後ろ盾が違う。Ripple 側は『Trump + Wall Street + crypto 産業』、ILP 側は『Gates Foundation + World Bank + 新興国中央銀行』——2 つの『無形連合』が並走している。図解 9 点で『分岐した IoV の片割れ』を整理する。

『取り残された Interledger』は誤解
Ripple の戦略形態論を俯瞰すると、ある違和感が残る——『最初は本気で Interledger Protocol(ILP)を open protocol として推進していたはずなのに、 気づいたら Ripple は institutional 中枢戦略に振り切っていて、ILP の話を全くしなくなった』。 では、ILP は『放棄された』のか?『失敗した』のか?
結論から言うと、ILP は死んでいない—— Ripple から完全に独立して、別の市場(Global South / financial inclusion)で確実に生きている。Bangladesh 中央銀行が 2025 年 9月に 国家 instant payment system を ILP-powered Mojaloop で稼働、 Web Monetization は W3C で標準化、Gates Foundation が Mojaloop を後援—— これは『取り残された』というより 『遺産分割』と読むのが正確。
Ripple と ILP は『同じ Internet of Value vision の双子』だった—— だが 2018-2024 年に完全に別の path に分岐した。 Ripple は US institutional 中枢へ、 ILP は Global South / financial inclusionへ—— これは『失敗 / 放棄』ではなく『遺産分割』。
この記事では、戦略形態論で扱った『心臓部の所有』とは 逆側に流れた ILP の現在地を 9 つの図解で構造化する: ① 4 phase 分岐構造、② Stefan Thomas の個人軌跡、③ 現在の ILP ecosystem(4 柱)、 ④ Bangladesh Bank の deploy 事例、⑤-⑥ Stellar との競合構造、 ⑦ 規制面と新興国 path、⑧ 市場規模、⑨ 2 つの無形連合—— 『取り残された』ではなく 『別の場所に立ち上がった IoV』として ILP を見直す。
4 phase で分岐した——タイムラインで見る
Ripple と ILP の分岐は、ある日突然起きたわけではない。4 つの phaseを経て、徐々に決定的な分岐へ進んだ。 まずタイムライン全体像を見てから、各 phase の詳細に入る。
Ripple と ILP——4 phase で完全に別の path に分岐した
『同じ vision の双子』が、2018 年の Stefan Thomas 離脱を起点に徐々に違う pathを歩み始め、 2024 年までに 完全分岐した—— 失敗ではなく『遺産分割』。
注目すべきは Phase 2(2018-2020)—— ここで Stefan Thomas(ILP 共同設計者・Ripple CTO)が Ripple を退任し、 Coil を起業。組織レベルではまだ ILP は Ripple 内に残っていたが、『思想と人材』が外に流れ始めたのがこの phase。
Stefan Thomas——人が動くと protocol も動く
ILP の独立化を最も明確に象徴するのが、Stefan Thomas という個人の軌跡。 Ripple CTO → Coil Founder → Interledger Foundation Chair—— この移動が、ILP の重心が Ripple から外に流れた経路そのもの。
Stefan Thomas の軌跡——ILP 独立化を象徴する人物
ILP 共同設計者である Stefan Thomas が、Ripple → Coil → Interledger Foundationと移動した軌跡が、ILP の Ripple からの独立を最も明確に象徴する。 『人』が動いた先に protocol も動いた。
Stefan が Ripple を辞めた瞬間に ILP の重心は外に移った。 人材と思想は『お金』ではなく『人』が運ぶ——『分岐』の本当のメカニズム。
Stefan は ILP RFC(2015)の主要設計者であり、 『分散・中立・open』を ILP の core design philosophy として持ち込んだ人物。 Ripple が 『開発者ではなく営業中心』『分散ではなく集中』『open ではなく proprietary』の方向に移行した時、Stefan はそれを retain せず、外に出た—— これが分岐の決定的瞬間だった。
Coil シャットダウン(2023)は 『失敗』ではなく『役割の移行』—— 78 億 payments 処理という実績を残しつつ、Stefan は ILF Chair に専念し、 個人的には Dassieという peer-to-peer ILP 実装で 『誰でも node を立てられる ILP』を再構築している。
ILP は『4 つの柱』で生きている——現在の ecosystem
では現在の ILP は具体的にどう動いているか?4 つの柱で組織化されており、 それぞれが独立に機能している。
ILP は『4 つの柱』で生きている
『取り残された』という言葉は誤解を生む——ILP は確実に動いている。 Foundation が governance、Mojaloop が新興国 RTGS 実装、 Web Monetization が web 標準、Dassie/Rafiki が OSS reference——明確に 4 本の柱で立っている。
重要なのは、これら 4 柱は全て Ripple Labs の関与なしに動いている点。 ILF が governance、Mojaloop が新興国 RTGS 実装、Web Monetization が web 標準、 Dassie / Rafiki が OSS reference——後援は Ripple ではなく Gates Foundation や ILF。
Bangladesh Bank IIPS——ILP が国家インフラ化した最初の事例
ILP の現在地を最も具体的に示すのが、Bangladesh 中央銀行が 2025 年 9月に稼働した 国家 instant payment system(IIPS)。 これは Mojaloop(ILP-powered)を base に構築されている。
Bangladesh Bank IIPS——『ILP が国家インフラ化』した最初の事例
2025 年 9月、Bangladesh 中央銀行が Mojaloop(ILP-powered)で 国家 instant payment system(IIPS)を稼働。 『ILP が議論レベルから 国家インフラ実装へ』移行した 象徴的事例——『新興国の中央銀行が deploy する』という path がここで実証された。
① 中央銀行が運営者——商業 fintech 主導でなく国家主権が確保される。 ② native token 不要——XRP / XLM のように『新通貨を使え』とは要求しない、既存 currency で動く。 ③ open source——ベンダーロックなし、国家自身が deploy / 保守可能。 ④ Gates Foundation 後援——資金面で push される。 『新興国の中央銀行にとって politically 飲みやすい』設計に最初からなっている。
注目点:bKash・Nagad・Rocket という 3 大 mobile moneyを 含めて、銀行・MFS・MFI が単一網に接続される。 これまで『送金できない / 高い手数料 / 何時間もかかる』が当たり前だった Bangladesh の domestic 送金が、ILP routing で 即時 / 低コスト / interoperableに。
『新興国の中央銀行が ILP を国家インフラとして deploy する』—— これは Ripple の institutional 戦略では絶対にできないこと。 Ripple は『商業 fintech』として動くため、中央銀行 sovereignty を 脅かさない open source という立ち位置になれない。ここに ILP の独自性がある。
Stellar との競合——似て非なる『金融包摂』戦略
ILP の主戦場である『新興国 retail cross-border 送金』は、Stellar(XLM)も同じく狙う市場。 Stellar Development Foundation(SDF)は元 Ripple co-founder Jed McCaleb が 2014 年に設立、『Ripple のもう一つの分家』とも言える。
ILP vs Stellar——似て非なる『金融包摂』戦略
両者とも『新興国の cross-border 小口送金』を狙うが、技術設計と政治的後ろ盾が違う。 ILP は『中立 protocol』、Stellar は『native ledger + anchor』—— この違いが市場戦略の違いに繋がる。
Stellar は 『商業 ecosystem』—— MoneyGram exclusive、Circle USDC、Flutterwave というように for-profit 主導の network を作る。
ILP は 『国家インフラ』—— 中央銀行や通信規制 body が deploy する側に立つ。 『誰が運営者か』が最大の違い——商業 vs 国家。
両者は 『同じ目的、違う設計』。 Stellar は『native ledger + anchor 制度 + USDC』で 商業 fintech networkを構築。 ILP は『中立 protocol + どんな ledger とも plug-in』で 国家インフラを志向。『誰が運営者か』が最大の違い——商業(Stellar)vs 国家(ILP)。
重複領域 vs 棲み分け領域
ILP と Stellar は『直接 head-to-head』ではなく、領域ごとに重複と棲み分けがある。 6 つの segment で見ると構造が明確になる。
ILP vs Stellar——重複領域 / 棲み分け領域
両者の関係は『単純な競合』ではない——重複領域は確かにあるが、棲み分け領域も明確。 国家 IIPS / Web Monetization は ILP、stablecoin / B2B は Stellar が優位。
ポイントは 『国家 IIPS(中央銀行運営)』と『Web Monetization』は ILP 独占、『stablecoin 決済』と 『B2B 大口送金』は Stellar 優位、『個人 cross-border』『mobile money 連携』は重複領域。『同じ市場でも入り口(go-to-market)が違う』—— Stellar は商業 fintech から、ILP は中央銀行から。
Stellar と ILP の関係は『敵 vs 敵』ではなく『従兄弟 vs 従兄弟』——同じ DNA から出た別の進化。 両者が並走することで、Africa / Asia の retail remittance 市場全体が拡大していくpositive-sum 関係でもある。
なぜ新興国地域なのか——規制 gradient で見る
ユーザーの直感通り——『ほぼゼロコスト送金』は技術的には可能だが、 先進国では規制面で実現困難。だから ILP / Stellar の主戦場は新興国になる。 これを規制 gradient で見ると、なぜ新興国 path が 合理的選択なのか分かる。
なぜ ILP / Stellar は『新興国地域』で攻めるのか?
『ほぼゼロコスト送金』が可能でも、規制面で 先進国では実現困難。 これは『技術の限界』ではなく『規制の限界』—— だから ILP / Stellar の主戦場は 新興国になる。 『規制ハードルが低い × 必要性が高い』地域に資源が集中する logic。
『新興国攻略 = やむを得ない選択』ではない。『新興国にこそ blue ocean がある』—— M-Pesa(Kenya)、PIX(Brazil)、UPI(India)が証明したように、 regulatory bias が逆に追い風になる地域では 先進国を超える送金革命が起きる。 Ripple は institutional 高密度の US を選んだ、ILP / Stellar は inclusion の Global South を選んだ—— どちらも合理的選択。
US / EU は MTL(送金業者免許)が州ごとに必要、 BSA / AML が厳格、Travel Rule、Banking Act 等の縛り—— 『ほぼゼロコスト』を実装すると 規制 cost が利益を消す。 一方で新興国では『中央銀行が financial inclusion を国策に』『World Bank / Gates Foundation 後援』 『mobile money 既存基盤』が揃っており、規制ハードルが低く必要性が高い。
市場規模——『取り残された』というより『未開拓地』
『ILP / Stellar が新興国にいる』と聞くと『小さな市場』と誤解されやすいが、 実際の数字は逆——retail cross-border 送金市場は年間 $525B 超、 送金手数料 6-7% を基準にすると $30-35B/年の fee pool。 『取り残された』というより 『先進国 fintech が手をつけられない巨大未開拓地』。
市場規模——『取り残された』というより『巨大な未開拓地』
ILP / Stellar が狙う retail cross-border 送金市場は 年間 5,000 億ドル超——Ripple の institutional FX 市場 ($7T/日) より小さいが、手数料率は遥かに高い(送金あたり 6-7%)。 数字で見れば『取り残された分野』ではなく『先進国 fintech が手をつけられない巨大市場』。
Ripple の institutional FX wholesale 市場は $7T/日($2,500T/年)。 ILP / Stellar の retail remittance 市場は $525B/年。 名目では Ripple 側が圧倒的だが、手数料率(fee margin)では retail remittance の方が 100 倍以上高い——『大きいが薄利』vs『小さいが厚利』の構図。
注目すべき数字:Flutterwave が 2025 年に Stellar 経由で $31B 処理(前年 $9B から急増)、MoneyGram-Stellar は 2026 年 4月に複数年延長を発表、Bangladesh IIPS は 1.7 億人対象、Coil は 78 億 payments を達成—— 『取り残された分野』とは全く逆の trajectory にある。
Ripple の institutional FX wholesale 市場($7T/日)と、 ILP / Stellar の retail remittance 市場($525B/年)——『大きいが薄利』vs『小さいが厚利』の構図。 手数料率では retail remittance の方が 100 倍以上高い—— だから両者とも『profitable な戦場』として成立する。
2 つの無形連合——並走する Internet of Value
最後に俯瞰——Ripple と ILP の分岐は、結果として『2 つの無形連合』として並走している。 それぞれが違う connection / 資源 / 政治勢力に支えられている。
並走する 2 つの coalition——『遺産分割』の最終形
Ripple と ILP の分岐は『2 つの無形連合』に分かれた—— Ripple は『Wall Street + 政治 + crypto 産業』、 ILP は『Gates Foundation + 国際機関 + 新興国中央銀行』。 競合ではなく 補完的な分業として並走する。
Ripple coalition は 『Trump + Wall Street + crypto 産業』—— BNY Mellon、BlackRock、Hidden Road、OCC trust 銀行、Fed master account 申請—— for-profit × 規制取込み × 中央集権的 institutional。
ILP coalition は 『Gates Foundation + 国際機関 + 新興国中央銀行』—— ILF、Mojaloop Foundation、World Bank、Bangladesh Bank、W3C WICG—— non-profit × 国家 sovereignty × 分散 open standard。
まとめ——『遺産分割』として理解する
Ripple と Interledger Protocol は『取り残された片方』ではなく、 『同じ Internet of Value vision を 2 つの path に分割した遺産』。
Ripple は institutional 中枢へ($7T/日 FX wholesale)、 ILP は Global South / financial inclusion へ($525B/年 retail remittance)——両者は競合ではなく補完的に並走している。
『Ripple は本気で Interledger をやろうとしていた』というユーザーの直感は 正しい—— 2014-2017 年は本当に『open protocol で銀行と blockchain を繋ぐ』vision が中心だった。 だが 3 つの構造的理由(プロトコル単独の限界、TradFi の重力、規制の重力—— 前記事『Ripple の戦略形態論』参照)で Ripple は institutional pivot し、 ILP は 外に流れた人材(Stefan Thomas)と外部 funder(Gates Foundation)に 支えられて独立化した。
なお ILP の現在の流動性構造(XRP がどう関わっているか、Mojaloop FXP モデル、 Rafiki connector の peering、Web Monetization での XRP 経路など)については、 続編『Interledger の FX 流動性は今どう動いているか——XRP は関与するか?』で 詳細に分解している。
投資家視点で重要なのは、『Ripple の institutional 戦略』と『ILP の inclusion 戦略』は 互いを否定しないという点。Ripple が成功しても ILP は別の市場で成立し、 ILP が成功しても Ripple の心臓部戦略は揺るがない。『遺産分割』として両者が並走することで、IoV vision 全体が前進する—— これが 2026 年現在の Internet of Value の現実の形。
『取り残された Interledger は今どこにいるか?』—— 答えは 『Bangladesh の中央銀行に、W3C の web standard に、Gates Foundation の grant に、 Mojaloop の open source に、Stefan Thomas の Dassie に』。 分岐の片方は institutional 中枢に、もう片方は Global South の inclusion に——2 つの IoV が並走している。